Essay



教員免許更新講習


 昨年の夏、教員免許更新講習に参加した。
 10年に1度、『最新の』教育を学んでくる更新講習である。私の勤務校は夏期補習があり、授業の振り替えや受講手続きに一苦労した。この更新講習は同僚の間でも総好かんを食っていた。
 更に面白かったのは、大学の講師の方々もこぞって、
「来年は(免許更新)あるか、わかりませんが、まあ頑張りましょう」
 と、会場の笑いをとっていたことだ。
 私も完全に斜に構えていた。

 英会話の講義だった。
 単位認定の試験として、英語自己紹介を各受講教師が行うことになった。
 この講義には、私のような中学校・高等学校で英語を教える教師の他に、小学校教師も数名いらっしゃった。
 小学校高学年から英語が週1で教えられるようになることを受けての受講者である。
 とある男性の小学校教師の番がまわってきた。
 彼の英語は、完璧なカタカナ英語だった。加えて、日本語とごちゃ混ぜの英語だった。
 はちきれんばかりの笑顔で、額に汗をかきながら、ところ狭しと大立ち回り、『英語』スピーチを行った。

「I go home, あー(かがみながら)これ、This is息子っす。あ、じゃなくてson?ね。Twoいるのね。」
「OK, 背広、Goodbye. Papa ready. Son ready. Let’s sumo! はっけよい。あ、fight? ね。」
「Me, push, push, push! (かがみながら大移動)息子、strong, strong, stroooong!」
「Push, push, プ〜〜ッシュ!!Papa, out! Son, えっと、ウインナー(←winner?)ッ!!!」

 

 会場は爆笑に包まれ、大きな大きな拍手が沸き起こった。
 私よりも、ネイティブ並みの発音を持つ私の同僚よりも、この日一番大きな拍手を得たのはこの小学校の先生だった。

 民主党に政権が移り、文科省も一新、教員免許更新はなくなる可能性が出てきた。
 教師とは、ひいては社会人とは日々自発的に精進する者であり、忘れたころにやってくる強制学習など廃止した方がいい、というのが私見である。しかし、親業のなんたるかを私に教えてくれた、日本のどこかで頑張っておられるあの日本一の子煩悩パパさんに再び会えないかと思うとき、ちょっと寂しくなる。


Essay