Handout

Questionnaire
授業アンケート


「教育実践を子どもの要求から出発させねばならない」

 山梨大助教授・加藤繁美先生のお言葉は至言です。


 私は毎学期の終わりに授業アンケートを生徒に書いてもらいます。匿名記入なので、忌憚ない意見をもらいます。
「学校変わっても元気でいてください」「マジありえん」に始まった授業アンケート記述は、叩かれて叩かれて、生徒からお礼が述べられるようになりました。
 教職就業中、20,000枚程のアンケートの恩恵を受けられる予定です。
 学生には「受験前に苦手科目をつぶしておけ」と指南しますが、隗より始めよ、です。
 私は毎学期、改善点を箇条書きにまとめたものを縮小コピーし、メモ帳に貼って、次学期の授業指針にしています。

授業指針
 またアンケートにはいろいろな用途があり、夏期休暇勉強合宿で歌う英語の歌を人気投票から決めたり、人気の高い曲を次の周の中高一貫中1〜の指導に参考にしたりしています。
 また、私の高校での授業は英語で行っています(始業挨拶・文法解説除く)が、授業英語の理解度を計り、次学期授業の口頭英語の難化・易化の目安としています。
 授業アンケート作例をWORDで作成しています。適宜改編の上、よろしければご使用ください。

QUESTIONNAIRE (←右クリックで『保存』できます)

 下のグラフは高1・1学期の、@アンケートをもとに作成した生徒の授業英語理解度表、Aは私への評価の集計・平均値をとって8角グラフにまとめた私の『通知票』です。


グラフ@ 生徒理解度平均値 65%

生徒の英語理解度












グラフA 教師の通知票 教師の通知票



















 2つのグラフ後、口頭英語の速度をやや落とし、使用語彙をやや易化しました。また、声を大きくするため、勤務途中の時間を利用して、空の柔らかいペットボトルを吸ってはいて、とペコペコしています(肺活量アップに良いらしいです)。
 定年までの目標は、『オール4』。これができて初めて、教師として黒帯、でしょうか。
 学生によっては、教師への評価・4段階の左に『5』と書いて、それに丸をうってくれる子もいます。嬉しくて嬉しくて、「授業、がんばろ!」とやる気がわき上がります。

 授業アンケートで衆知を集めることは、百冊の教科関連書物を読むことに勝ることがあります。新しい授業アイデアは書籍からも得られるでしょうが、教師自身の短所を指摘できるのは、その授業に身を置く生徒に他ならないからです。塾講師時代の私はおそらく、『発音が弱い』のに授業アクティビティの本を読み漁ったり、『板書が見づらい』のに英文法の重箱の隅をつついたり、と見当違いの努力をしていたように思います。教育は相手のいる行為、と気づかない失策でした。
 生徒の視点から得られる建設的な意見を真摯に受け取れば、大きな授業改善を図ることができます。社会人になると、なかなか他者から叱責や賞賛を受けることがありません。生徒による匿名アンケートや、チームキムタツの諸先生がなさっているような相互授業評価が教師の伸長に不可欠です。

 余談ですが、ときにアンケートには無関係な個人的メッセージが書かれていることがあり、楽しく読ませてもらっています。


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○勤務5年目アンケートより
「日曜に英検や試合と重なると週末課題がしんどいので、土曜配布ではなく金曜配布にしてほしい」
→週末課題の配布を金曜に改めました。提出率・解答精度が向上しました。

○勤務9年目アンケートより
「オーラル試験 生徒2人 対 教師1人 はどうかと思う。 英語の上手い人とあたると不利だ」
→思慮に欠けていました。直前で実施を取り止め、評点に加える以上、オーラルは1対1の形式に固定しました。

○勤務3年目アンケートより
「英語の歌は聞くだけでなく、歌いたい」
→高校生は恥ずかしがって歌わないだろう、というのは私の誤認でした。生徒の発音・リエゾン・イントネーションが大きく向上しました。

○勤務8年目アンケートより
「オーラル試験の準備は多めにして欲しい」
→オーラル試験前日は単語テストに換えて、ペアワークでオーラルの模擬テストを行うようにしました。学び合いの効果か、オーラルの出来が飛躍的に向上しました。

○勤務6年目アンケートより
「先生の体験談や雑談がおもしろかったです」
→テキストを淡々と進めるのをやめ、意識して雑談を交えるようになりました。寝る生徒が減りました。

○勤務2年目アンケートより
「(ラジカセの)コンセントを優しく引き抜いてください」
→最初は笑いましたが、実行してみると、いたみが減り、買い替えの頻度が減りました。

○勤務9年目アンケートより
「Let's Sing♪(文法授業の冒頭で歌う英語の歌)は最近の歌も歌いたい」
→教育的な歌ばかり選んでいた自分を改めました。最近の洋楽を研究したり、生徒がアンケートに書く歌で、授業で歌うに堪えるものも採用しました。

○勤務3年目アンケートより
「単語の良い覚え方を教えて欲しい」
→接頭辞・接尾辞や借用語を研究し、類義語をふんだんに教えるようになりました。生徒の語彙補強に一役買いました。

○勤務8年目アンケートより
「週末課題plusに大学過去問を入れて欲しい」
→長崎大学の小問集合を中3生に解かせたところ、8〜9割解答者が続出し、生徒に大きな自信を与えることができました。

○勤務5年目アンケートより
「チャップリン『独裁者』が一番心に残っています。映画でこんなに戦争の悲惨さを表現できるとは思いませんでした。今でも演説は心に残っています。自分ひとりではこういう機会をもてなかったと思います」
→中高一貫のゆとりを利用して、教育的な映画鑑賞で道徳教育に努めるようにしています。

○勤務5年目アンケートより
「他の人の作文なども読んでみたいです」
→時間があるとき、Readingの授業1時間とって、生徒の全作文(添削した上で)を回覧させました。クラスメートに読まれる、ということで、読み手を考えた英作文や、褒め合いが生じました。

○勤務4年目アンケートより
「オーラルで先生の言っている指示がわかりません」
→オールイングリッシュを心掛けていましたが、英語が不得手な子に指示が通らないことがありました。生徒の表情をよく見て、必要があれば、自分やALTが言った英語を日本語に直すと、活動が上手くいくようになりました。

○勤務6年目アンケートより
「日本の歌の英語版を歌いたい」
→探してみると結構あるもので、『翼をください』『上を向いて歩こう』『エリーマイラブ』等を使うと、生徒はメロディーが初めから頭にあるので、大きな声で歌うことができました。

○勤務9年目アンケートより
「テンポの速い歌だけじゃなく、バラードも歌いたい」
→若い子はアップテンポのポップスを好む、という私の先入観を覆した一文でした。今ではアンケートに歌いたい英語の希望を書く欄を設け、日に1曲ずつYou Tubeで鑑賞して、使用に値する曲をリストに加えています。

○勤務7年目アンケートより
「ラジオの試験範囲は英語A・Bで分けて欲しい。勉強が大変だ」
→勤務校は英語A/英語Bがあり、またNHKラジオ基礎英語を伝統的に聴講させています。はじめ、試験範囲は『英語A・B:ラジオ4〜5月号』といった具合にしていたのですが、これを『英語A:4月号』『英語B:5月号』といった具合に改めました。成績不振者層でリスニング問題を捨ててかかる生徒が減少しました。

○勤務6年目アンケートより
「英単語シールは楽しく単語が覚えられるので、ぜひ続けて欲しい」
→何気なく100円ショップで作った英単語シールが好評と知り、今では配布物やノート等に貼るようになりました。中1で"arrest(逮捕)","transparent(透明な)","truce(休戦)"といった単語を言える生徒が普通になりました。学年に120人の生徒がいるとき、1回のシール配布は1人換算で瞬間的に120個の単語を教えることになります。

○勤務10年目アンケートより
「テスト前の自習・質問の時間は、日本語で質問に答えて欲しい」
→私は定期考査前に、進度が許せば質問と自習の回を一コマとりますが、日本語返答に切り替えて、生徒の質問数が増えました。

○勤務10年目アンケートより
「『1分間英文法』は文を切らずに読んでほしい」
→高校生から、水王舎の『1分間英文法』の音読をしていますが、スラッシュリーディング→文単位のリピートに変えました。

○勤務14年目アンケートより
「オーラル練習で音楽の音が大きいと、その分声を拾いにくかったり、大きな声を出さないといけなかったりします」
→オーラルペア練習の授業のときに、BeatlesとCarpentersをバックグラウンドミュージックとして流していますが、音量の調整に配慮をするようになりました。

○勤務2年目アンケートより
「ネクタイがださい」
→特に何もしませんでした。

○勤務3年目アンケートより
「ネクタイがださい」
→Paul Smithに買いに行きました。

○勤務7年目アンケートより
「(改善・向上して欲しいところを書いてください)クラスの中を見ていたらたまに笑っていない人もいるから、その人たちが全員笑うようなギャグを」
→本業は教師です。

○勤務1年目アンケートより
「チャックを閉めて授業して下さい」

○勤務11年目アンケートより
「(plus生徒の特典に加えて欲しい物)食券」

○勤務10年目アンケートより
「(加えて欲しい賞品)金一封」

○勤務9年目アンケートより
「(授業でやってみたいことを書いて下さい)ビリーズ・ブートキャンプ」

○勤務8年目アンケートより
「(改善・向上して欲しいところを書いてください)室内温度」

○勤務6年目アンケートより
「ご妊娠おめでとうございます」
(妻が長女を妊娠していたとき)

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 アンケートに徹底したフランチャイズレストラン、リンガーハットは業績を格段に伸ばした、と読みました。妥協や変節を許さない、という条件で、教員(企業)も、生徒(顧客)に耳を傾けられたら、素晴らしいことだと思います。

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