Essay


雨垂れ石を穿つ


 去る夏期補習最終日に、恒例のバドミントン部OB戦を行った。例年、私は優勝最有力者の顔を思い浮かべながら賞状を作成している。そして、その予想は、いまだ外れたことがない。
 信行君は、中学3年進級時は部内で6〜7番手の実力だったと思う。取り分け上背があるわけではなく、系統だった運動も中学から、だと聞いている。
 彼に注目し始めたのは、その練習の取り組み方が目を惹いたからである。
 ハンドタッチという基礎練習がある。ペアになり、一人が手のひらを左右ランダムに開いてそれをパートナーがタッチする、という、シャトルへの即応を養うものである。多くの生徒が床に足を固定したまま行う中、信行君は大きく下がり、前進しタッチ、また大きく下がる、を繰り返す。ステップ練習では、更なる速さを、歩幅を、と自身に負荷をかけて誰よりも速く疾走する。徹頭徹尾、諸練習で負担の多い動きを自らに課すのである。中体連引退後の夏期休暇の部活は顔を出す3年生が数名いたが、信行君は皆勤した。引退学年にあって、後輩に場を譲り、壁相手にシャトルを打つ日も多々あった。
 OB戦では、シングルス部内No.1の選手を準々決勝で破り、また2年連続中体連出場の実力者・副キャプテンを決勝で破り、高校生を含む20名の頂点に立った。
 3年生部員が信行君の下に集まり、胴上げを始めた。先を越されて唖然とする私に、友人の倉本君が教えてくれた。
「ノブ(信行君のこと)が優勝したら、皆で胴上げしよう、って決めてたんです」


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